二〇二一年四月十三日。
日本政府は、福島第一原発敷地内にある1000基のタンクに保管中の汚染水125万トンを、海洋放出することを発表した。二年後から段階的に開始し、四十年を目処に完了するという。現在原子炉内では、原発事故で溶解した〈デブリ〉と呼ばれる燃料が浸されている放射能汚染水を、多核種除去設備(ALPS)というフィルターに通し、水素同位体のトリチウムを除く62核種を除去している。だがデブリに浸かった水の放射性濃度は非常に高く、なかなか基準値以下に下がらない。東電資料によると、二〇二〇年三月末時点で、A LP Sで二度処理後も、71%が基準値を超えているという。
この状態で、希釈して海に流すという日本政府の決定に真っ先に反応したのは韓国だ。すぐに「遺憾の意」を表明し、国際海洋裁判所への提訴も辞さない姿勢を見せた。
これに対し産経新聞は、韓国が2016年に自国原発から136兆ベクレルを放出している事実(経産省データ)を指摘、世界各国が毎年放出するトリチウム分布図を掲載し、懸念を示す国々のダブルスタンダードを批判した。
反対する福島漁協に向かって、菅総理は言った。
「これが唯一、現実的解決策なのだ」
だが本当にそうだろうか?
この議論にはいくつか重要要素が抜け落ちている。
第一に、除去が難しいとはいえ、トリチウムの半減期は13年だ。政府の決定後に東電がタンク増設を発表したが、まずは原発周辺の敷地をフルに使い、貯蔵で放射能を極限まで減らす措置が先だろう。
第二に、トリチウムだけに矮小化して海外と比較する報道が目立つが、他国が流す原子炉冷却水と違い、メルトダウンした原発汚染水には、ヨウ素やウラン、炭素14、プルトニウム、ストロンチウムなど、トリチウムより寿命が長く危険度が高い核種が含まれており、同列ではない。他国が警戒するのはALPSが3割しか減らせていない危険核種の方なのだ。
米国の科学雑誌サイエンス誌は、まだ複数オプションが残される中、最も安易で最小コストの方法を選んだ日本政府を批判している。
第三に、この汚染水の処理方法を決定した小委員会の議論の中身が不透明だ。米高官は「透明性を評価する」などというが、実際公聴会では撮影も録音も禁じられ、後から見たくてもまともな議事録がない。危険核種の残存も2018年まで隠蔽されていた。
政府は二言目には「風評被害を防ぐため」というが、その原因が自らの「透明性の欠如」である事をまずは猛省すべきだろう。全世界と次世代に多大な影響を与えるこの手の決定は「情報公開」なくしてはありえないからだ。
出典:東京スポーツ・マンデー激論(20214月)